2019 モンゴルツーリング⑥


2019/8/23(金)

既に日付の認識が曖昧になってきた。今日が何日の何曜日で、この旅が始まって何日目だったっけ?

バイクであろうと、カヤックであろうと、旅の始まりはいつも意気込みとか、やったるぜ~感が先行していて、特別な高揚感に包まれている。それが1日たち、2日たちと日を追うごとに肩の力が抜けて、少しずつ旅が身体に馴染んでゆく。まるで、袖を通したばかりの新品の洋服が、洗濯の度に身体に馴染むように。

そして、旅も4~5日を経過すると、すっかりそれは日常となる。そんな感覚がたまらなく好きな僕は、1日でも長い旅を欲するのだ。

まぁ、常識ある社会人としての身分と、自由な旅人としての立ち位置との激しいせめぎ合いの結果、今の所は9日間の連続休暇が限界なんだけどね。

☆☆☆



モンゴルバイク旅5日目。 川沿いの最高のロケーションな幕営地を撤収した僕たちは、今日も遥か地平線を目指して走り出す。地平線を目指して走るって経験、山岳国家の日本では、なかなか簡単にはできないもんなんだけど、ここモンゴルではご想像のとおり、エブリデイ地平線。エブリタイム地平線である。

もう、どこまで行っても地平線が遥か彼方に一筋の線としてあり、時折山や丘を越えるんだけど、その先はやっぱり地平線。

いやはや、すげ~所を走ってんな~っと、笑いがこみ上げてくる。


そんな草原を走っていると、遠くに白く輝く砂の帯。間違いなく大好物の砂丘地帯だ。当然先導のアックンはまっしぐらに砂丘に向けてハンドルを切る。

そして始まるサンドライディング♪

思うままにジャンプしたり、果敢に砂の斜面を駆け上がり、勢いが足らずにバイクごと崩れ落ちたり。





軽量で適度なパワーのAG200で遊ぶサンドライディングは、とにかく楽しいの一言。風紋がキレイに描かれた砂丘を、まるでスノーボードで新雪にパウダーラインを描くが如く、自分のラインを刻んでゆくのが快感で、小一時間は走り回る。

そして、疲労困憊・・・(汗)

さて、いつまでも遊んでるわけにはいかない(っていうか、全て遊びなんだけど)。今日が5日目ってことは、今晩の野営はバイク旅のラストナイトとなる訳で、いつまでも上達しないへっぽこライダーの僕は、暴れるバイクをなんとか騙し騙し操りながら先を急ぐ。






途中、昼食休憩のときに調子に乗って、アクセルターンの練習をしてたらすっ転んで、肋骨をグキッ!

まぁ、折れてる訳じゃないんだけど、実は帰国して一週間が経とうとする今も、寝返りすら不自由な日々を送っております・・・(号泣)


幕営地に到着する少しまえから、次第に雲行きが怪しくなってきていることに気づいていた。先導のアックンも、ドス黒く迫りくる厚い雨雲に目をやり、しかめ面をしながら僕に目配せをしてくる。

湿り気を帯びた不穏な空気が漂う中、なんとか雨をしのいで幕営地に到着した・・・と思ったら、早速降ってきた。

スタッフ達が慌ただしくテントを設営し、僕たちが急ぎ荷物をテントに放り込むやいなや、ババババ!!!っと強烈な雨がテントを叩き始める。

おぉ~! ギリセーフ♪

なんて最初はお気楽だったんだけど、突然強烈に始まった雨は、その勢いを緩めるどころか、更に強さを増し、強烈が猛烈に、そして激烈で熾烈な大雨となる。そのうち遠雷がゴロゴロと不気味にこだまし、広大な草原に立つ数張りのテントの中で不安に怯える僕。

こんな状況の中でも、隣では寝言を言いながらフガッ!っといびきをかいている相棒のけんちゃん。まったく・・・この図太さが羨ましいよ・・・。


ピカッ!とゴロゴロ!の間隔が次第に短くなってきてるぞと思った刹那・・・


ビカッ!!ドーーーーーン!!!!

ぎゃーーーー!! 今、すぐそこに落ちた!!!!(絶叫)

さすがのけんちゃんも飛び起きて、アングリしてる。


( 落雷時のイメージ映像)


そのころから、テントは完全に水没。くるぶしより上まで水がきていて、テントのフロアもプカプカしているし、前室に置いておいたヘルメットやバッグも水に浮く勢い。浸水は前室だけにとどまらず、中国製のチープなテントのフロアから盛大に雨水が滲み出てきて、もはやパニック状態の我々は、通訳のハルちゃんの導かれるままに、最低限の荷物だけ持って近くのゲルに飛び込んだ(泣)

いやぁ~、マジ生命の危険を感じたよ。



数刻の後、やっと雨があがりゲルの外にでて驚いた。なにも無い草原だったテント周辺は、まるで池となっていた。

いやぁ~、あのままテントにいたら、いったいどうなってたんだろう(汗)



その夜は、僕達と同じ日程で別ルートを走っていた女性4名が参加するチームと合流し、今にもまた降り出しそうな曇天の夜空を物ともせずに、焚き火を熾し、ウォッカを回す。

そして歌い始めたモンゴルのおじさん。

切ないマイナーコードの曲調に、僕には全く理解不能のモンゴルの言葉を乗せた古くから伝わるモンゴル民謡。辺りには人工の光など全く無い漆黒の闇の中、焚き火に照らし出される深いシワを刻んだモンゴルのおじさんが、とうとうと腹の底から歌い上げるその歌声は、僕の心の奥底の感情のヒダを震わせる。

ここ数日間、この国の大地を走りまわり、そこに暮らす寡黙で真面目で優しい人々に触れ、数世紀前に、世界の大半を手中に収めたモンゴル帝国の末裔たちが紡ぐ歌という物語は、時を超え、距離を越え、言葉の壁すら越えて、生粋の日本人である僕の心にもジ~ンと響きまくり、まわり始めた強烈なウォッカも手伝ってか、危うく涙するところだった。

いやぁ~、ラストナイトを飾る演出にしては、ちょっと出来すぎじゃないかぃ?(泣)


歌の勢いはとどまることを知らず、モンゴルスタッフ一同の歌を聴き、我々日本チームの美声を披露するという、即席日蒙親善歌合戦が繰り広げられる中、ポツリポツリと降り始めた雨を合図にお開きとなり、モンゴルの荒野で過ごす最後の夜は、静々とふけていった。

☆☆☆


そうそう。この日の夕方、幕営地に辿り着いた時、一匹のモンゴル犬がどこからともなく現れて、ゆらゆらとしっぽをふりつつ足元に座り込んで僕を見上げた。

まるで懐かしむような、それでいてちょっと恥ずかしがる様なその瞳に、4年前に突然の急死で別れた我が家の愛犬が重なる。

奇しくもその日は8月23日。彼女の命日だった。きっと、待ち合わせをしている虹の橋のたもとではどうしても待ちきれず、会いに来てくれたんじゃないかと思っちゃう僕は、ちょっとロマンチストが過ぎるかなぁ~・・・(*´ω`*)


つづく・・・。

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